前日銀総裁黒田東彦氏は3月10日、自身にとっては最後となる金融政策決定会合に臨み終了後、記者会見して異次元緩和の成果を問われ、こう胸を張ったという。
「経済・物価の押し上げ効果をしっかり発揮した。経済の改善は労働需給のタイト化をもたらし、女性や高齢者を中心に400万人を超える雇用の増加がみられた」 黒田氏が言うように政府が発表する雇用関係の数字は軒並み上昇している。異次元緩和がスタートした2013年に約6300万人だった就業者数は、22年には約6700万人まで増加。アルバイトを含む有効求人倍率は13年の0・93倍から22年は1・28倍となり、完全失業率も改善基調にある。
ちょっと下の表を見てください。確かに、異次元緩和がスタートした2013年に約6300万人だった就業者数は、22年には約6700万人まで増加。アルバイトを含む有効求人倍率は13年の0・93倍から22年は1・28倍となり、完全失業率も改善基調にある。
しかしながら、賃金面では印象はだいぶ異なる。厚生労働省の毎月勤労統計調査(従業員5人以上)によると、2022年の1人当たりの現金給与総額は月平均32万円台。ピークを記録した1997年と比べるとなんと5万円近い開きがある。
その理由は労働環境の大きな変化がある。労働者派遣法の度重なる改正で、国内では非正規雇用が急増した。90年代は2割程度だった雇用に占める非正規の割合は、22年にはなんと36・9%とほぼ倍増しているんですよ。
正規と非正規では待遇面に大きな格差がある。国税庁によると、21年の非正規労働者の平均年収は198万円。正規雇用(508万円)の半分以下という状況だ。失業率が改善する一方で、実は新たに雇用される労働者の多くを賃金水準が低く抑えられた非正規が占めることが平均年収の停滞につながっているんですよ。
黒田氏は記者会見で「我が国は物価が持続的に下落するデフレではなくなった」と強調したが、それでも異次元緩和をやめようとしなかったのは、賃金の改善がなかなか進まず、国内経済の回復→賃金上昇→消費の拡大→経済のさらなる成長――という経済の好循環が実現できていなかったことにあるでしょう
23年春闘では大手を中心に賃上げ回答が相次いだが、その要因は異次元緩和ではなく、歴史的な物価上昇にあるんです。物価変動の影響を反映した1月の実質賃金は前年同月に比べ4・1%減少した。賃金の伸びが物価高に追いつかない状況なんですよ。
(参照:毎日新聞)